近代世界と人種
Modern World and Race

講義概要

開 講 時 期担 当 教 員
平成18年度 水曜2限藤川 隆男 

授業の目的、ねらい

近代世界において形成されてきた白人という人種について考察し、現代における人種と人種主義の意味について考える

ホワイトネス・スタディーズ(白人性研究)とは

白人性(ホワイトネス)の問題が、近年、歴史学や文学、女性学や人種研究、社会学や法学、教育学や心理学など人文・社会諸科学の広い領域で注目を集めるようになっている。「国民」が国民国家の形成とともに「構築」あるいは「創造」されてきたという認識は、歴史家の間で広く共有されているように思う。白人研究においても、生物学的に客観的な基準で分類されていると思われる「人種」が、社会的・歴史的に構築されてきたと考えられている。その結果、白色人種はどのようにして生まれてきたか。最初は白人とみなされていなかった移民集団がどのように白人かするのか。白人という身体が歴史的にどのように創られてきたか。普遍的な人間像が白人性といかなる関係にあるかなどが、研究のテーマとされるようになってきた。
 現在、歴史学のなかでも、とりわけ帝国や移民の研究では、白人性は避けて通れないテーマの1つになりつつある。アメリカ史においては、アイルランド人を中心とするヨーロッパ系移民の白人化が講義などでも頻繁に取り扱われるテーマになっている。これに比して、イギリス帝国史では、白人性の問題に対する理論的な取り組みはかなり遅れていると言わざるをえないだろう。確かに、ヴロン・ウェアは、時代を溯って、19世紀の第1波フェミニズムの時代におけるホワイト・フミニニティと人種の関連を検証し、女性史研究に大きな影響を与えている。また、オランダ領インドをフィールドにする歴史人類学者アン・ストーラーも、白人の非白人化を積極的に主題化して、インドを中心とするイギリスの植民地研究に影響を与えているが、白人性が日本のイギリス帝国史文脈で主要な役割を果たしているとは言えない。
 19世紀末からイギリス帝国は本格的な移民規制の時代に入る。白豪主義を確立したオーストラリア、アジア系移民を規制した南アフリカ・カナダ・ニュージーランドを考察対象とするとき、帝国内の移民と白人化の問題は切り離すことができない。アメリカにおけるアイルランド系移民の白人化と、イギリス本国と上記の自治植民地におけるアイルランド系移民の同化のプロセスとの比較だけでも、新しい歴史研究の地平は広がるだろう。先住民の問題や植民地主義の問題、スポーツ史や文化史、女性移民やレイディ・トラヴェラー、ミッショナリーの研究、とりわけイギリス帝国の支配理念や帝国意識の問題と、白人性の問題は密接に関係しており、今後の研究の進展が期待されている。
 白人性の研究は、カルチュラル・スタディーズの影響を強く受けてきたが、白人性研究がテクスト中心主義に限定される必然性はない。たとえば、デイヴィド・ラディガーによる労働者階級の白人性の研究は、伝統的な歴史研究としても十分に通用するものだ。歴史的文脈のなかで、白人性の問題を考えることは、唯物論的なグローバル・ヒストリーとテクスト中心主義のポスト・モダニズムの乖離を克服する1つの手段になろう。

授業の計画、内容と目標

近代世界における白人と白人性の概念を歴史的な観点から理解できるようになることを目標とし、以下のような問題について検討する。

成績評価の方法

レポート50% 試験50%

教科書

藤川隆男編 『白人とは何か?―ホワイトネス・スタディーズ入門』(刀水書房、2005)

参考図書

授業の進行とともに必要な場合指示する。


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最終更新日 2005/12/31
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